取引先との契約で売掛金の譲渡禁止特約が付されていると、売掛金をファクタリングに利用することができません。それは一体どのような特約なのでしょうか?民法改正によって状況が180度変わる可能性があることも含めて、売掛金の譲渡禁止特約(債権譲渡禁止特約)について解説します。

譲渡禁止特約の売掛金はファクタリングを利用できない?
原則として売掛債権を第三者に譲渡することは債権者の自由です。
しかし、売掛金の中には、売掛金が発生する商取引の契約書において債務者が譲渡を禁止する旨を記している場合があります。
「甲は、乙の事前の書面による承諾なしに、本契約から生ずる権利又は義務の全部又は一部を第三者に譲渡してはならない」といった内容の一文が入っているケースがそれです。
このような契約内容の売掛金は、「譲渡禁止特約」の売掛金と呼ばれます。
生産受注や工事請負では譲渡禁止特約が入っている契約はむしろ普通で、とくにめずらしいものではありません。
そして譲渡禁止特約の売掛金は譲渡無効となるため、ファクタリングには利用できません。
ただし、民法の改正によって、2020年以降はたとえ債権譲渡禁止特約が付されていてもファクタリングを利用できるようになる可能性があります。
詳しくは民法改正についてのチャプターで説明します。
債権譲渡禁止特約が設けられた理由
そもそもなぜ債権譲渡禁止特約なるものが設けられているのでしょうか?
売掛金が発生するのは、大手企業が発注元となり、それに対して中小企業が自社の商品を納入する場合がほとんどです。
その際、大手企業は債務管理にかかわる手間をなるべく取り除き、さまざまなリスクを回避しようと考えます。
譲渡禁止特約はそのために都合の良い特約だといえるのです。
まず、売掛債権が譲渡されて支払先が変更されると、その変更手続きをするには経理上の手間がかかります。
変更手続きのために稟議を通す必要が生じることもあるでしょう。
また、いつもとは違う支払先に変更すると送金ミスの可能性も出てきます。
さらに、取引先である中小企業が経営不振になった場合のことも考えなければなりません。
仮に経営が苦しくなったために売掛債権が反社会的勢力に渡れば、支払いのために送金することがコンプライアンス上の問題となります。
譲渡禁止特約は、こうした事情を背景に徐々に浸透してきたものです。
中小企業側もこの特約を飲むことで大手企業からの注文を得るというケースが増えていきました。
民法改正による債権譲渡への影響
債権の譲渡は民法の第466条(債権の譲渡性)で保証されています。
しかし同時に、民法には契約書に債権の譲渡禁止特約があった場合は、譲渡や担保として提供することは無効となるとも明記されています。
譲渡禁止特約の売掛金がファクタリングに利用できないのはそのためです。
しかし、2017年5月の民法改正で466条の内容が変わり、2020年4月1日から施行される予定となっています。
改正案では債権譲渡禁止特約があったとしても債権譲渡は有効となります。
これは譲渡禁止特約の扱いを現行法から180度変えたものといえます。
ただし、債務者は譲渡制限について悪意または重過失の譲受人、そのほかの第三者に対しては債務の履行を拒み、さらにもとの債権者(譲渡人)に対して弁済することができます。
つまり、債務者にとっての「弁済の相手方の固定」という利益は引き続き保護されるということです。
となれば、債権者・譲渡人(中小企業など)の立場からすれば、たとえ債権譲渡が有効であっても、債務者(大企業など)が譲渡禁止特約に違反したことを理由に契約を解除してしまうのではないかという懸念が生じます。
これに対して法務省の解釈では、改正法でも債務者の利益は保護されており、譲渡されたとしても特段の不利益がないにもかかわらず、取引の打ち切りや解除を行うことは、権利濫用などに該当し得ると説明しています。
法改正の趣旨は、あくまで譲渡制限特約付き債権における債権譲渡を進めることにあると考えられます。
債権譲渡禁止特約について政府の方針
経済産業省中小企業庁ではかねて中小企業者が不動産担保に過度に依存せずに資金調達ができるよう売掛債権担保融資保証制度を創設するなど、売掛債権の利用促進に努めています。
また、中小企業庁では、中小企業者との物品及びサービスの取引する際には、債権譲渡禁止特約の解除への協力を呼び掛けています。
実際に、現行法においては譲渡禁止特約が付いていると中小企業者が売掛債権を担保として譲渡し、融資を受けることができないことから、国や地方公共団体では、既に、債権譲渡禁止特約の解除が進んでいます。
民法改正後のファクタリング契約
では、民法改正後は、債権譲渡禁止特約の売掛金でファクタリングを利用できるようになるのでしょうか。
その可能性は高いと考えられます。
しかし、実際にファクタリング会社がどのような対応をするかは2020年4月1日を迎えてみないと分からないところがあります。
最初は各社によって対応が異なることもあり得るでしょう。
経済産業省中小企業庁の呼びかけなどが浸透して債権譲渡禁止特約の解除が進んでいけば、よりファクタリングを資金調達方法の一つとして利用しやすい環境となっていく可能性は十分に考えられます。
2019年1月現在、債権譲渡禁止特約の売掛金ではファクタリングの契約ができません。
しかし、2020年4月1日以降は状況が大きく変わることが予想されます。
取引先との間で債権譲渡禁止特約を結んでいる場合は、今後の動きに注目していきましょう。